「恐れ入ります」は、主にお詫びや感謝の気持ちを伝えたいときに適した丁寧な表現です。
ビジネスシーンでもよく使われるフレーズの一つですが、使うタイミングを間違えてしまうと、相手を不快な気持ちにさせてしまう可能性があります。
本記事では、「恐れ入ります」の意味や語源、適切な使い方、さらにはビジネスシーンでの言い換え表現や英語表現も解説します。
「恐れ入ります」の使い方をマスターして、よりスムーズなビジネスコミュニケーションを目指しましょう。
「恐れ入ります」は上司や目上の人に使用して良い

「恐れ入ります」という表現は、ビジネスシーンにおいて上司や取引先といった目上の人に使用しても問題ありません。
「恐れ入ります」は、相手へ感謝やお詫びの気持ち、または依頼をする際に敬意を持って伝えたいときに用いられるフレーズです。相手を敬っていることを示せる表現なので、目上の人に対しても使えます。
たとえば、上司に急ぎで資料を確認してほしい場合、「恐れ入りますが、〇月〇日〇時までにご確認いただけますと幸いです」とクッション言葉として添えれば、相手に負担をかけるのを承知のうえでお願いしている旨を丁重に伝えられます。
「恐れ入ります」は、相手が自分のために時間や労力をかける必要がある場面で、相手に配慮や謙虚さを示したいときに適した表現なのです。
ただし、「恐れ入ります」は「恐れ入る」を丁寧にした表現であり、敬語ではありません。そのため、目上の人に使う場合、直後に敬語や謙譲語を添えるのが基本です。
「恐れ入ります」の意味と語源

「恐れ入ります」は、「恐れ入る」を丁寧語にした言葉で、主に相手に敬意を持って感謝や謝罪の気持ちを伝える際に使用されます。
コトバンクの「コトバンク」に記載されている「恐れ入る」の意味は以下の通りです。
出典: コトバンク(精選版 日本国語大辞典 )「恐れ入る」(参照 2025-01-27)1 相手の好意などに対して、ありがたいと思う。恐縮する。「ご厚情のほど―・ります」
2 相手に失礼したり、迷惑をかけたりしたことに対して、申し訳なく思う。「恐れ入りますが」の形で、ものを頼んだり尋ねたりするときなどのあいさつの言葉としても用いる。恐縮する。「ご心配をおかけして―・ります」
3 あまりのことに驚き入るばかりである。
㋐相手の才能・力量に太刀打ちできないと思う。脱帽する。「―・った腕前だ」
㋑物事のひどさにあきれる。「あれで秀才とは―・るよ」
4 非常にこわがる。
「恐れ」は、「恐れる」の連用形を名詞化した表現で、「敬う」「かしこまる」「慎む」という意味を持ちます。
「入(い)る」は、動詞の連用形に付くと、「その動作や状態の度合いが大きくなる」「その動作に徹する」「すっかりその状態になる」という意味になります。
「恐れ」と「入る」を組み合わせると、恐縮や敬意の気持ちを強く示す「恐れ入る」という表現になるのです。
ちなみに、「恐れ入る」の語源は言語の「恐る」が由来であると言われており、「怖がる」という意味を持ちます。
そのため、相手の才能・力量に脱帽したことや、呆れ・恐怖の気持ちを伝えたいときにも「恐れ入る」を使う場合があります。
「恐れ入ります」と「恐れ入りました」の違い
「恐れ入ります」の過去形にあたる「恐れ入りました」は、過去に起きたことに対して使われます。
「恐れ入ります」は、感謝やお詫びを示す際に使う丁寧な表現です。一方、「恐れ入りました」は相手の言動に対して「恐縮」「驚き」「申し訳なさ」を感じたときに適しています。
「恐れ入りました」を使う主な場面として、相手に間違いを指摘され自分の非を認める場合や、相手の能力に感服した場合などが挙げられます。
【例文】
- 自分の非を認める場面:鋭い指摘に恐れ入りました。以後留意します。
- 相手の能力に感服した場面:素晴らしいプレゼンで契約を取る姿を見て、恐れ入りました。
ただし、「恐れ入りました」は皮肉やあきれたニュアンスも含むため、使うシーンやタイミングに注意が必要です。特に目上の人に対して使ってしまうと、「嫌みっぽい」「呆れられてる」と思われる可能性があります。
「恐れ入ります」の意味や用途が異なるので、使う際は混合しないように気を付けましょう。
「恐れ入ります」の使い方

ここからは、「恐れ入ります」を以下のシチュエーションで使う際の方法をご紹介します。
- 感謝を伝えるとき
- 依頼するとき
- 質問するとき
「恐れ入ります」は、相手に対して敬意を持って感謝を伝えたいときや、へりくだった態度で依頼・質問をしたいときに使える表現です。
シーン別の使用例もご紹介するので、「恐れ入ります」の正しい使い方を理解したい方はぜひご覧ください。
「恐れ入ります」で感謝を伝えるときの使い方
「恐れ入ります」は、相手が自分のために手間をかけてくれたときや、褒められたことに対して謙虚な姿勢を取りたいときに使える表現です。
謙遜の意味が強く含まれるため、「ありがとうございます」と比べてより深い敬意を示せます。
「恐れ入ります」を使って感謝の気持ちを伝えるときの例文は以下の通りです。
【使用例】
- お忙しいところご協力いただき、恐れ入ります。
- ご丁寧にご教示いただき、恐れ入ります。
- 身に余るお言葉をいただき、誠に恐れ入ります。
このように、何に対して感謝を示したいのか先に提示したあと、「恐れ入ります」を添える形が一般的です。
相手への敬意と感謝の気持ちを同時に伝えられるので、上司や取引先といった目上の人にも使えます。
「恐れ入ります」で依頼するときの使い方
相手に負担がかかるような依頼やお願いをするときにも、「恐れ入ります」が適しています。
頼みにくいお願いをする場面では、主に「クッション言葉」として使われる場合が多いです。「恐れ入りますが」を依頼内容の前に付け加えれば、相手にとって手間のかかる依頼である旨を承知のうえでお願いしていることを伝えられます。
「恐れ入ります」を使って依頼する際の例文は以下の通りです。
【使用例】
- 恐れ入りますが、こちらの資料をご確認いただけますでしょうか。
- 恐れ入りますが、進捗状況をお知らせいただけますと幸いです。
- 恐れ入りますが、再度ご説明いただけますでしょうか。
頼みにくいお願いをする場合、ただ「~してください」とお願いするより「恐れ入りますが」を一言添えたほうが、より丁重に依頼できます。
「恐れ入ります」で質問するときの使い方
「恐れ入ります」は、質問をする際に相手へ配慮や申し訳ない気持ちを表したいときにも使える表現です。
依頼する場面と同様に、クッション言葉として使われる場合が多く、主に相手に時間を割いてもらうような質問をする際に適しています。
また、すでに相手から説明を受けたあと、自分では解決できないような疑問点が出てきて追加の説明を求める場面でも活用できます。
「恐れ入ります」を使って質問する際の例文は以下の通りです。
【使用例】
- 恐れ入りますが、こちらの仕様についてもう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。
- 恐れ入りますが、この件に関するご意見をお聞かせいただけますでしょうか。
- 恐れ入りますが、納期の目安を教えていただけますでしょうか。
質問内容や質問するタイミングによっては、なかなか尋ねにくいケースも少なくありません。そんなときに「恐れ入りますが」を添えることで、「手間がかかるのは理解している」「質問してすいません」という気持ちをやんわり伝えられます。
【注意点】自分に非がある謝罪で使用するのはNG

「恐れ入ります」は、自分に明らかな非がある場合に謝罪として使用するのはNGです。
「恐れ入ります」は、相手に対する配慮や敬意を示す表現ですが、言葉自体に謝罪の意味は含まれていません。
「恐れ入ります」の誤用例と正用例は以下の通りです。
- 誤:この度は、弊社の不注意で貴社のお手を煩わせてしまいましたこと、恐れ入ります。
- 正:この度は、弊社の不注意で貴社のお手を煩わせてしまいましたこと、誠に申し訳ございません。
「この度は、弊社の不注意で貴社のお手を煩わせてしまいましたこと、恐れ入ります」という表現は、「自分のせいで相手に手間をかけさせてしまったことに対して、敬意を持っている」というニュアンスになります。この場合、敬意は示せても肝心の謝罪の要素が抜けています。
自分に非がある謝罪を行う際は、「申し訳ございません」や「心よりお詫び申し上げます」といった謝罪表現を使いましょう。
ビジネスメールでの「恐れ入ります」を言い換えた使用例文

ビジネスメールでは、「恐れ入ります」を他の表現に言い換えることで、状況に応じた柔軟なコミュニケーションが可能です。
ここからは、「恐れ入ります」の類語表現として使える下記の言葉の使用例文について解説していきます。
- 恐縮です
- 痛み入ります
- お手数をおかけします
- 差し支えなければ
表現のバリエーションを増やすことは、良好なビジネス関係を築くうえで重要なポイントの一つです。「恐れ入ります」の言い換え表現を理解して、ビジネスのコミュニケーションスキルを伸ばしていきましょう。
【例文1】恐縮です
「恐縮です」は、「感謝または申し訳なさを感じている」「気恥ずかしく、身のすくむような気持ち」という意味を持つ言葉です。
相手に何かしてもらったときやお願いをしたことに対して、申し訳ない気持ちを伝える際に適しています。
「恐れ入ります」よりもフォーマルな印象を与えるため、ビジネスシーンでは、特に上司や取引先など目上の人に対して使われる場合が多いです。
ここでは、先日取引先から注文を受けた商品の納品日を変更したいときに、「恐縮です」を使ってお願いする場面での例文を紹介します。
- 参考
- 株式会社▢▢ 〇〇様
お世話になっております。△△株式会社の〇〇です。
メールでのご連絡となり恐縮ですが、先日ご注文いただきました「(商品名)」について納品日を変更させていただきたくご連絡いたしました。
現在、メーカー都合による一部部品の欠品が発生した影響により、製造が遅れている状況でございます。
つきましては、納品予定日を▢月▢日から翌月〇月〇日(〇)への変更をお願いしたく存じます。
ご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
【例文2】痛み入ります
「痛み入ります」とは、相手の配慮や好意に対して深く感謝の気持ちを表す言葉です。
「恐れ入ります」とほぼ同じ意味を持ちますが、より感謝の度合いを強く伝えたい場合に適しています。「ありがとうございます」といったただ感謝を示すというより、「自分にはもったいないほどありがたい」というニュアンスが強いです。
ビジネスシーンでは、特にフォーマルな場面で使用されることが多く、目上の人とやりとりをしたいときに適しています。
ここでは、社内プレゼンを行った際に、部長からお褒めの言葉をもらったときに、「痛み入ります」を使ってお礼の言葉を伝える場面での例文を紹介します。
- 参考
- 〇〇部長
お疲れ様です。△△です。
先日は、お忙しいところ〇〇キャンペーンのプレゼンテーションにお時間を割いていただき、誠にありがとうございました。
終了後、〇〇部長よりプレゼンテーションについてお褒めの言葉をいただきましたこと、痛み入ります。
これも、〇〇部長にいただいた的確なフィードバックのおかげです。ありがとうございます。
今後も精進いたしますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
【例文3】お手数をおかけします
「お手数をおかけします」は、相手に手間や負担をかけることへの謝意や配慮を表したいときに適しています。
「お手数」は、「負担や手間がかかる」という意味を持つ「手数」に、敬意を示す「お」を付けたフレーズです。「おかけします」は、「そのために時間や労力を使う・費やす」という意味の「かける」を丁寧に表した言葉です。
ビジネスシーンでは、目上の人に何かを依頼する際、申し訳ない気持ちを強調して伝えたいときに使われます。
以下は、「お手数をおかけします」を用いて、取引先に対して期日内に資料の確認をお願いする際の例文です。
- 参考
- 株式会社▢▢ 〇〇様
お世話になっております。△△株式会社の□□です。
先日はお足元の悪い中、弊社にご足労いただきまして、誠にありがとうございました。
打ち合わせでお伝えいたしました「(商品名)」の販促キャンペーンの資料をお送りいたします。
お忙しいところ恐縮ですが、〇月〇日(〇)までにご確認いただけると幸いです。
お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
【例文4】差し支えなければ
「差し支えなければ」は、相手の都合に配慮しつつ何かを依頼したり質問したりするときに適したクッション言葉です。
「差し支え」は、物事を行う際の障害や妨げを指し、主に物事や行動がスムーズに進まない状況を表すのに使われます。「なければ」は、形容詞「無(な)い」の仮定形「なけれ」に接続助詞「ば」を組み合わせた表現で、「もし、それがないなら」と仮定する意味を持ちます。
ビジネスシーンでは、基本的に断られても支障のない頼みごとをするときに使用するケースが多いです。
ただし、相手に断られると困るようなお願いをする場合、「恐れ入りますが」といった依頼のニュアンスが強い表現を使うのが適切です。
ここでは、上司から渡された資料に関して質疑応答の時間が欲しいときに、「差し支えなければ」を用いてお願いする例文を紹介します。
- 参考
- 〇〇課長
お疲れ様です。▢▢です。
先日ご共有いただきました業務マニュアルについて、いくつか質問がございます。
差し支えなければ、今日明日で15分ほどお時間をいただくことは可能でしょうか。
お忙しいところ恐縮ですが、ご検討いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。
「恐れ入ります」の英語表現をご紹介

「恐れ入ります」の英語表現は、使用するシーンによって適した表現が異なります。
- 感謝を伝えるとき:「Thank you.」「I appreciate~」
- 依頼するとき・お詫びの気持ちを示したいとき:「I’m sorry.」「trouble」「pardon」「I’m afraid~」
「恐れ入ります」で感謝を伝える場合、「Thank you.(ありがとう)」「I appreciate~(~に感謝します)」といった感謝やお礼の英語表現を使うケースが多いです。
「恐れ入ります」で依頼する場合、基本的に「I’m sorry.(ごめんなさい)」をはじめとした謝罪の意味合いが強い英語表現が使われる傾向にあります。
「trouble」は「面倒ごと」「やっかいごと」という意味を持ち、「I trouble you」で「迷惑をかける」となります。「pardon」の意味は「許し」や「容赦」となり、「恐れ入りますが」「すいませんが」と同様の使い方ができます。
「I’m afraid~」は、「恐れ入りますが〜でございます」という意味で、相手に不都合なことを伝えたりお願いしたりする際に適した英語表現です。
以下に、「恐れ入ります」の英語表現を使用した例文をご紹介します。シーンに応じて適切な英語表現を使い分けましょう。
- Thank you for taking time out of your busy schedule.(お忙しい中お時間をつくっていただきまして、恐れ入ります。)
- I appreciate your cooperation.(ご協力いただき恐れ入ります。)
- I’m sorry to trouble you, but could we discuss something briefly?(恐れ入りますが、少しだけ何か話し合うことはできませんか?)
- Pardon me, but could you please clarify the details of the report?(恐れ入りますが、報告書の詳細についてご説明いただけますでしょうか?)
- I’m afraid (that) I can’t accept your request.(恐れ入りますが、ご要望を受け入れることはできません。)
「恐れ入ります」は敬意を持って感謝やお詫びを伝えられる表現

【おさらい】
- 「恐れ入ります」は、相手へ感謝やお詫びの気持ち、または依頼をする際に敬意を持って伝えたいときに適している。
- 「恐れ入ります」自体は敬語表現ではないため、目上の人に使う際は直後に敬語や謙遜語を付けるのが基本。
- 自分に非がある謝罪をするときに使用するのはNG。
「恐れ入ります」は、感謝やお詫びの気持ちを敬意を持って伝える際に用いられる表現で、上司や取引先といった目上の人にも使えます。
「恐れ入ります」を使う主なビジネスシーンは、「感謝を伝えるとき」「依頼するとき」「質問するとき」です。「相手が自分のために手間をかけてくれる」「相手に負担がかかるようなお願いや質問をする」といった配慮が必要な場面で活用されます。
「恐れ入ります」は、配慮と敬意を示せる便利な言葉である一方で、「皮肉」「呆れ」といったネガティブな意味合いも含まれているので、使うタイミングや相手を間違えないように注意するのが重要です。
「恐れ入ります」の正しい使い方を理解し、ビジネスシーンでの円滑なコミュニケーションに活かしていきましょう。