「伏してお願い申し上げます」という表現は、非常に丁寧なお願いをしたいときに適した敬語です。
しかし、日常会話ではほとんど耳にすることはありません。
また、ビジネスメールで使える表現だとわかっていても「どういうときに使えばいいのか」と迷う人も多いでしょう。
この言葉は敬意が強すぎるため、使いどころを誤ると堅苦しい印象を与えてしまうことがあります。
この記事では、正しい意味や使える場面、避けるべきケースをわかりやすく解説します。
「伏してお願い申し上げます」は上司や目上の人に使用して良い

「伏してお願い申し上げます」は、上司や目上の人に対して使える丁寧な表現です。
謙譲語なので、へりくだって相手への最大限の敬意を示す効果があります。
たとえば、重要な依頼を通したいときや、どうしても協力をお願いしたい状況で使えば、真剣な気持ちと誠意を伝えられます。
- 具体的な使いどころ
- ・書面での正式な依頼文
・重要なお願いを含むビジネスメール
・謝罪文やお詫び状
一方で、懇願するニュアンスを含むため、日常的な会話で多用するのは不自然です。
「伏してお願い申し上げます」は、最上級のお願いや謝罪など、特にフォーマルな場面に絞って使うのが適切です。
普段から気軽に使う表現ではありませんが、いざというときに使えると相手に誠意や本気度が伝わります。社会人として表現の引き出しを増やす意味でも、覚えておいて損はない言葉です。
「伏してお願い申し上げます」の意味と語源

ビジネスシーンにおける「伏してお願い申し上げます」は「くれぐれもよろしくお願いいたします」を最上級の丁寧さで伝えるニュアンスで使われます。
特に、協力を強く依頼したいときや、失敗に対する深いお詫びを表す場面で使うと、誠意や真剣さがより相手に伝わりやすくなります。
語源や言葉の成り立ちは分解して考えるとわかりやすいです。
- 伏して:身を低く伏せる姿を現す副詞
- お願い:「願い」の謙譲語
- 申し上げます:「言う」の謙譲語
つまり、日本古来の床に座る様式での礼儀作法が語源です。
現在のビジネスシーンでは、文字通り「土下座をして懇願します」という意味で使われることはほとんどありません。
「伏してお願い申し上げます」の使用例

「伏してお願い申し上げます」は基本的に上司や顧客のような目上の人に対して使う言葉です。
具体的には以下のような使い方をします。
- ご多忙なところ恐れ入りますが、お力添えのほど伏してお願い申し上げます。
- 何卒ご容赦賜りますよう、伏してお願い申し上げます。
- このたび、拙宅の建設工事に際し、地鎮祭のご執行を賜りたく伏してお願い申し上げます。
多くの場合はビジネスメールに添えるような使い方で、無理を承知でお願いする場合や、重要な依頼をお願いする場合に適しています。
口頭での普段使いには適しませんが、フォーマルな場面であれば口頭で使うこともあります。
「伏してお願い申し上げます」を使う際の注意点

「伏してお願い申し上げます」は非常に丁寧で重みのある言葉ですが、使い方を間違えると、意図していないニュアンスを含む可能性があります。
そのため、ビジネスメールや書面で使う際には、以下のような注意点があります。
- 同僚や部下へのお願いには使わない
- 大げさな印象を与える使い方をしない
- お願いや謝罪以外と一緒に使わない
それぞれの注意点について、詳しく解説します。
①同僚や部下へのお願いには使わない
「伏してお願い申し上げます」は、同僚や部下には使わないようにしましょう。
この言葉は謙譲語の一種で、自分をへりくだることで相手を立てる性質があります。
そのため、同僚や部下に対して使うと「皮肉?」と誤解されたり、場違いな印象を与えてしまうリスクがあります。
同僚や部下へのお願いでは「です・ます」を基本とした丁寧語で対応しましょう。
- 参考
- 【です・ますを使った例】
タスク調整やスケジュール管理を円滑に進めるために、〇〇さんに進行調整役をお願いしたいと考えています。
「伏してお願い申し上げます」は上司や目上の人への重要なお願いや謝罪で使う言葉です。
②大げさな印象を与える使い方をしない
「伏してお願い申し上げます」は、「無理を承知で、誠心誠意お願いする」というニュアンスを含むため、むやみに使うと「大げさだな」と思われてしまいます。
- 注意点
- 【NG例】
添付いたしましたプログラムを来週の懇親会までに一読していただけますよう、伏してお願い申し上げます。
このように、軽めの依頼に使ってしまうと不自然さが際立ちます。
そのため、日常的な依頼には「お手すきの際にご確認いただけますと幸いです」など、シーンに合わせて自然な表現と使い分けることが大切です。
③お願いや謝罪以外と一緒に使わない
「伏してお願い申し上げます」は、あくまでお願いや謝罪の場面に限定して使うのが基本です。
最大限の敬意を示すへりくだった言葉なので、使い方によっては一文のなかでバランスが崩れてしまうためです。
- 注意点
- 【NG例】
至急返信をいただけますよう、伏してお願い申し上げます。
このような書き方をすると、「へりくだりながら相手を急かす」という矛盾した印象を与え、失礼に感じられることがあります。
また、以下のような場面でも使わないほうが無難です。
- 相手に何かを命令する場面
- 相手に何かを催促する場面
- 第三者を介しての言伝(ことづて)
- 気軽な提案・相談ベースの話
大切なのは「重みのあるお願いや誠意ある謝罪」という場面に限定して使うことです。
適切に使用できれば、誠意や真剣さがより相手に伝わりやすくなります。
「伏してお願い申し上げます」のビジネスメールの例文

「伏してお願い申し上げます」は、強い依頼やお願いを伝えるフォーマルな表現です。
ビジネスメールにおいても適切に用いれば、相手に対して丁寧で誠実な印象を与えることができます。
ただし、誤った使い方をすると堅苦しすぎたり、不自然な印象を与えてしまったりする可能性もあるため注意が必要です。
ここからは、社内向けと社外向け、それぞれのケースに適した例文を紹介し、実際のメールに応用できるポイントを解説します。
【例文1】社内向けビジネスメール
新しいプロジェクトでトラブルが発生し、自分だけでは解決が難しく、上司に助力をお願いする場面を想定した社内向けビジネスメールの例を紹介します。
社内とはいえ重大なトラブルが発生しているため、あえて「伏してお願い申し上げます」を用いることで、深刻さと切実さを伝えています。
- 【例文】
- 〇〇部長
お疲れ様です。△△部の□□です。
現在進行中の新規プロジェクトにおきまして、システム連携の不具合が発生しております。社内で原因調査を進めましたが、私どもだけでは対応が難しい状況です。
つきましては、部長のご経験とご助力を賜りたく、打開策をご一緒に検討していただけませんでしょうか。特にクライアントとの調整にあたり、部長のお力添えが不可欠と考えております。
急なお願いで大変恐縮ではございますが、事態収束のため、伏してお願い申し上げます。
【例文2】社外向けビジネスメール
建築会社が新築工事に際し、地域の氏神様を祭る神社(神主様)に地鎮祭をお願いする場面を想定した社外向けビジネスメールの例を紹介します。
社外向けの依頼では、相手に対する敬意が第一です。
「伏してお願い申し上げます」を使うと、単なる依頼ではなく、相手の都合や立場を尊重しつつ、深い誠意をもってお願いしていることが伝わります。
- 【例文】
- 拝啓 初夏の候、貴社ますますご隆盛のこととお慶び申し上げます。
平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。
さて、このたび弊社では新築工事を行うにあたり、地域の氏神様に地鎮祭を執り行っていただきたく存じます。工事の安全と関係者一同の無事を祈念するための重要な儀式でございます。
ご多忙の折、大変恐縮ではございますが、日程調整のうえ、ご対応いただけますよう、伏してお願い申し上げます。
祈祷料や当日の詳細につきましては別紙をご確認ください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
「伏してお願い申し上げます」以外の類似表現

「伏してお願い申し上げます」は非常に丁寧な言い回しですが、ビジネスでは場面や相手によって以下のような類似表現への言い換えたほうがいいケースもあります。
- 平(ひら)にご容赦を願います
- 切(せつ)に願います
- 何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたします
それぞれの使い方やニュアンスを、例文とともに詳しく見ていきましょう。
①平(ひら)にご容赦を願います
「平(ひら)にご容赦を願います」は、「伏してお願い申し上げます」と同じく懇願や謝罪を強める表現ですが、ニュアンスや使いどころが異なります。
「平に」は古語で「なにとぞ」「どうか」という意味を持ち、相手に許しを乞う場面で使われることが多いです。
たとえば、納期が遅れる可能性を伝える際に「万一遅れが生じた場合は、平にご容赦を願います」と添えると、事前に謝意を示す柔らかな印象になります。
一方で「伏してお願い申し上げます」は、重大な依頼や切実な謝罪など、より強く誠意を伝えたいときに用いる表現です。
「平にご容赦を願います」は予測されるトラブルや軽い不手際へのお詫びとして、「伏してお願い申し上げます」は切実なお願いや深い謝罪として、状況に応じて使い分けましょう。
②切(せつ)に願います
「切(せつ)に願います」は、「心の底から強く望む」という意味を持つ表現です。
「伏してお願い申し上げます」が相手に懇願するニュアンスを含むのに対し、「切に願います」は祈るような真剣さを示す点で異なります。
たとえば、ビジネス文書で「このプロジェクトが成功することを切に願います」と書けば、協力を強く求めつつも、押し付けがましさを抑えた誠意ある表現になります。
一方で「伏してお願い申し上げます」は「どうか承諾してください」と懇願の度合いが強く、相手に配慮しつつ切実な依頼や謝罪を伝える場面で用いる表現です。
「切に願います」は自分の強い思いを伝える場面、「伏してお願い申し上げます」は相手に頭を下げて頼む場面と覚えておくと使い分けがしやすいでしょう。
③何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたします
「何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたします」は、ビジネスメールや挨拶でよく使われる依頼表現です。
「何卒」は「どうか」「どうぞ」という意味を持ち、相手に配慮しながら願いを伝える言葉として使われます。
「何卒」は「伏して」よりも幅広いビジネスシーンで使える敬語表現です。
たとえば、取引先に書類確認をお願いする際に「お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします」とすれば、柔らかく依頼を伝えられます。
一方で「伏してお願い申し上げます」は、強い懇願や切実な謝罪を示すので、やや重く格式ばった印象です。
日常的な依頼やメールの締めでは「何卒よろしくお願いいたします」のほうが自然で使い勝手もよいでしょう。
「伏してお願い申し上げます」の英語表現を紹介

「伏してお願い申し上げます」を英語で表す場合、謙虚さを示す 「humbly」 を使った言い回しや、強くお願いするニュアンスに近い言葉が使われることが多いです。
- I humbly ask for your favorable consideration of this matter.
- With the utmost humility, I respectfully and earnestly plead for your kind consideration.
- I would sincerely appreciate your continued attention to this matter.
ここでは「伏してお願い申し上げます」の意味に近い英語表現を紹介します。
①I humbly ask for your favorable consideration of this matter.
- 【ニュアンスの近い英語表現】
- I humbly ask for your favorable consideration of this matter.
(本件につきまして、何とぞご高配を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます)
目上の人に対して、丁寧にお願いする場合に使われる英語表現です。
「humbly」は「謹んで」「腰を低くして」といった意味がある最上級の謙遜表現のため、日本語の「伏して」に近い英語です。
「ask」には「頼む」「お願いする」という意味があり、ここでは「お願い申し上げる」という丁寧な表現で使用されます。
日本語の「伏してお願い申し上げます」と同じく、上司・取引先・公式文書向けの表現です。
②With the utmost humility, I respectfully and earnestly plead for your kind consideration.
- 【よりフォーマルな英語表現】
- With the utmost humility, I respectfully and earnestly plead for your kind consideration.
(この上なく謙虚な気持ちを込め、何とぞご高配を賜りますよう、誠心誠意お願い申し上げます)
「伏してお願い申し上げます」に近いニュアンスでありつつ、非常にフォーマルで懇願の意味合いを強めた英語表現です。
「With the utmost humility」は「この上なく謙虚な気持ちで」という意味があり、「伏して」と同様、相手への敬意を強く表現できます。
「I respectfully and earnestly plead for」は「敬意と誠意をもって懇願します」という意味です。
これら2つの丁寧な表現を重ねて使うことで、懇願のニュアンスが強くなっています。
③I would sincerely appreciate your continued attention to this matter.
- 【くれぐれもよろしくお願いしますの英語表現】
- I would sincerely appreciate your continued attention to this matter.
(この件について引き続きご配慮いただき、心から感謝します)
「伏してお願い申し上げます」は「くれぐれもよろしくお願いします」をより丁寧に伝えたいときに適した表現なので、こちらの英語表現も言い換えとして使えるでしょう。
また、「あなたがこの件を気にかけてくださることに、私は心から感謝するでしょう」という仮定表現にも訳せます。
これは英語圏で相手の顔を立てる際にも使える表現です。
「(仮定が真実になるように)便宜をくれぐれもお願いします」という意図を、遠まわしに伝えられます。
「伏してお願い申し上げます」は状況で使い分けよう!

「伏してお願い申し上げます」は、目上の相手に対して強い依頼や謝罪を伝えるときに用いる、最上級の敬語表現です。
使用場面さえ誤らなければ、誠実さと真剣さが相手にしっかりと伝わります。
ただ、最上級の敬語表現だからこそ普段使いには向きません。相手と自分の距離感や物事の温度感で他の敬語表現と使い分けましょう。
英語では「I humbly ask for your favorable consideration」などが近い表現として使えます。
ぜひ本記事を参考に、適切なビジネスシーンで「伏してお願い申し上げます」を活用してみてください。