ビジネスメールなどで目にする「取り急ぎお礼まで」は、「時間がないので先に感謝だけ伝えたい時」というニュアンスで使われます。
しかし、「ビジネスで使う表現として適切なのか」と迷う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「取り急ぎお礼まで」の意味や語源、なぜビジネスシーン全般で注意が必要なのか、注意点、失礼のない類似表現、英語表現まで詳しく解説します。
失礼にならない言い換え表現を知って、ビジネスにおけるリスクを減らし、信頼関係を築きましょう。
「取り急ぎお礼まで」は使用を避けるのが無難
「取り急ぎお礼まで」は、上司や取引先などの目上の方だけでなく、ビジネスシーン全般において避けるのが無難な表現です。
「急いでいるため礼を尽くせない」というニュアンスが含まれるので、相手によっては「雑な印象」「簡略的」と受け取られることがあります。
特に、フォーマルな文面や重要な取引先への連絡では不向きです。
このように使用に際しては意見が分かれる表現のため、親しい同僚や部下であっても、別の言葉に言い換えてお礼を伝えるのが無難と言えます。
「取り急ぎお礼まで」の意味と語源
「取り急ぎお礼まで」とは、「礼を尽くすために十分な時間をとれませんが、まずは感謝だけでも申し上げます」という意味です。
語源は定かではありませんが、手紙文化の中で生まれたとされています。
「取り急ぎ」は、手紙の冒頭に使う「急啓」や結びの「草々」と同じく、緊急の便りを示す結語の一つです。
郵便に数日かかっていた時代には、「至急お礼をしたためておりますので、拙い文をお許しください」という意図で使われていたのです。
一方、メールやチャットが主流の現代では、「取り急ぎ」に含む「時間がない」という前提が薄れ、簡略的・軽い印象を与えてしまう場合も珍しくありません。
そのため、最近ではマナー上「使わない方が良い」と考える人が増えています。
急いでお礼を伝えたい時は表現を変える
上司や取引先など目上の人に急いで感謝を伝えたい場合は、状況に応じて丁寧な表現を選びましょう。
正解は一つではありませんが、一般的によく使われるのは下記になります。
- まずはお礼申し上げます
- 略儀ながら、まずはお礼申し上げます
- お礼のみにて失礼いたします
- 【番外編】よろしくお願いいたします
① まずはお礼申し上げます
ひとまず感謝の気持ちを伝える際に、幅広い場面で使いやすい汎用的な表現です。特に、相手の貢献や協力に対して、真っ先にお礼を伝えたいときに適しています。
例えば、取引先を招いて実施した会議のあとに送るお礼メールでは、次のように使えます。
- 参考
- 【ビジネスシーンでの使用例】
本日はお忙しい中、ミーティングにご出席いただき、まずはお礼申し上げます。
いただいたご意見を基に検討を進めてまいります。
「まずはお礼申し上げます」は、会話やメールの冒頭に使用されるケースが多いです。
何に対して感謝を伝えたいのか補足することで、相手に真摯な姿勢を示せます。
【ポイント】
- 上司や社内外問わず幅広く使える汎用性のある表現
- 急ぎでなくても、まず礼を伝えておきたい場面に最適
②略儀ながら、まずはお礼申し上げます
本来は正式にお礼をすべきところを、やむを得ず簡略な形で感謝を伝える際に用いる、「より改まった丁寧な表現」です。
特に、顧客・取引先の役職者や初めて関わる重要人物など、失礼のない対応が求められる場面で使われることが多い言い回しです。
- 参考
- 【使用例】
このたびはご紹介いただき、誠にありがとうございました。
出先のため略儀ながら、まずはメールにてお礼申し上げます。
「略儀ながら」と添えることで、“本来なら直接ご挨拶をすべきところ、取り急ぎメールで失礼します”
という誠意を示すことができ、ビジネス上の丁寧な配慮として相手に好印象を与えます。
【ポイント】
- 本来は正式にお礼すべきところ、取り急ぎメールで失礼する丁寧な表現
- 顧客・取引先の役職者や初対面の重要な相手に適している
③お礼のみにて失礼いたします
まずは感謝のみを簡潔に伝えたい場面で使える「かしこまった」印象の表現です。「取り急ぎお礼まで」よりもやや丁寧で、スピード感と礼儀のバランスを取りたい場面に適しています。
特に、「感謝だけ先に伝えるものの、正式な対応は後ほど行う」という状況でよく使われます。外出先での急な問い合わせなど、即座に長文の説明が難しいケースで便利です。
- 参考
- 【ビジネスシーンでの使用例】
本日はお電話ありがとうございました。お礼のみにて失礼いたします。
後ほど改めて資料をお送りいたしますので、ご確認のほどお願いいたします。
「取り急ぎお礼まで」がやや口語的で急いでいるニュアンスが強いのに対し、こちらは落ち着きがあり、より丁寧な印象を与えます。
【ポイント】
- 感謝のみを先に伝え、後ほど正式な連絡を行う意図を示すのに最適
- 口頭・メールのどちらでも使える丁寧な表現
- 「取り急ぎお礼まで」より改まった印象を与えたい時に便利
【番外編】よろしくお願いいたします
相手への依頼・期待・今後の対応を柔らかく伝える、最も汎用性の高い締めの表現です。
特に、「取り急ぎお礼まで」のように急ぎで感謝だけを伝えるニュアンスとは異なり、相手とのやり取りを円滑に進めるための前向きな姿勢を示す表現として機能します。
外出中で詳細に返信できない場面でも、「今後の対応を丁寧につなぐ一言」として便利です。
例えば、取引先から資料を送付されたものの、外出中でまだ内容を確認できないことを伝えたい際には、次のように使えます。
- 参考
- 【ビジネスシーンでの使用例】
資料をご送付いただき、誠にありがとうございます。
外出中のため、内容の確認は後ほどさせていただきます。よろしくお願いいたします。
このように「よろしくお願いいたします」で締めくくることで、相手への敬意を保ちつつ、今後の対応への前向きさを示すことができます。
【ポイント】
- 感謝・依頼・今後の対応など幅広く使える万能で丁寧な表現
- 「取り急ぎお礼まで」と違い、急ぎのニュアンスはなく、落ち着いた締めとして最適
- 外出時など詳細な返信ができない場面でも、相手への配慮を示せる
「取り急ぎお礼まで」を避けるべき理由と注意点
「取り急ぎお礼まで」は、その簡略さから受け取り手の世代、関係性によって意見が分かれる表現です。
特に最近ではリスク回避の観点から、「使わない方が良い」と考える人が増えてきています。
ここでは、「取り急ぎお礼まで」がなぜ失礼に当たるのか、その背景も含めた注意点を紹介します。
- 伝え方の制約によりそっけなく見える
- 後日改めてお礼をする前提の言葉だから
- 使える相手や場面が限られるため
これらの注意点を意識して使えば、短い言葉でも誠意を伝えられるでしょう。
①伝え方の制約によりそっけなく見える
「取り急ぎお礼まで」を用いる場合、文面をお礼のみに絞り簡潔にまとめることが推奨されます。
また、文末で「取り急ぎお礼まで」と締める形が一般的です。
そのため「そっけない」「十分な配慮に欠ける」といったマイナスな印象を相手に与えてしまう場合があります。
「急いでいるから」という前提は、現代においては「礼儀を尽くす手間を省いた」と受け取られかねません。
かといって簡潔でないと「十分な礼を尽くせないほど急いでいるのに、長文を書く余裕はあるの?」と思われる可能性もあります。
そのため丁寧な代替表現を使い、可能な限り誠意を込めた一言を添えるほうが無難と言えます。
②後日改めてお礼をする前提の言葉だから
「取り急ぎお礼まで」はあくまで、後日改めてお礼をすることを前提とした感謝を伝える言葉です。
落ち着いたタイミングで正式にお礼をすることが本来のマナーです。
そのため、後日お礼をすることなくそのまま終わってしまうと、人によっては「マナーがなっていない」「そっけない」といった印象を与えてしまう可能性があります。
【後日お礼をする方法】
- 丁寧なメールを改めて送る
- 対面の場を設けて直接お礼を伝える
方法は相手との関係性や状況によって異なります。
いずれにしても、「改めてご挨拶に伺います」「数日中に詳細のご連絡を差し上げます」といったフォローの一言を添えると丁寧です。
後日正式に感謝を伝える機会を設けると伝えれば、取り急ぎのお礼でもしっかり誠意を伝えられます。
③使える相手や場面が限られるため
「取り急ぎお礼まで」は一見便利な言葉にも見えますが、相手や場面をかなり選ぶ言葉です。
先述の通り、「取り急ぎお礼まで」は連絡に数日かかっていた時代に「至急お礼をしたためておりますので、拙い文をお許しください」という意図で使われていた言葉です。
メールやチャットが普及し、すぐに連絡が取れるようになった現代では、「時間がない」という前提が薄れてきています。
そのため、最近ではマナー上「使わない方が良い」と考える人が増えつつあり、簡略化する場合にも場面が限られるのが実情です。
上司をはじめとした目上の人、取引先の重要な役職者、初めてのやり取りでは、より丁寧な表現に置き換えたほうが安心です。
また、式典や公式な文書などフォーマルな場面においても避けるのが無難と言えます。
先ほどご紹介した「まずはお礼申し上げます」「略儀ながらまずはお礼申し上げます」といった表現を用いるようにしましょう。
このように特にビジネスの場では、相手や場面によって表現を使い分ける必要があります。
メールを送る前に、「失礼な言葉遣いになっていないか?」と一度立ち止まって確認する習慣をつけましょう。
取り急ぎお礼を伝えたい時のビジネスメールの例文
ここからは、取り急ぎお礼を伝えたい時のビジネスメールの例文を紹介します。
「取り急ぎお礼まで」は、前述のとおり意見が分かれる表現なので別の表現を用いるのが無難と言えます。
そのため「取り急ぎお礼まで」を丁寧にした表現を使用しています。
ぜひ参考にしてみてください。
【例文1】社内向けビジネスメール
「取り急ぎお礼まで」は、社内の同僚や部下に対して、急ぎで感謝を伝える時に使える表現です。
ここでは、「同僚や部下に急な作業を割り振った結果、商品の納品に間に合った」というシーンを想定して例文を作成しています。
お礼以外の要件は書かず、感謝を短く伝えるのがポイントです。
- 参考
- 〇〇さん
お疲れさまです。△△の納品対応、無事に間に合いました。タイトなスケジュールの中ご尽力いただきありがとうございました。まずは御礼申し上げます。
今後の在庫対応については、明日改めて共有いたします。
引き続きよろしくお願いいたします。
コンパクトな文面ですが、納品報告と感謝の気持ちを同時に書くことでより誠意が示せます。
【例文2】社外向けビジネスメール
社外向けのメールでは、基本的に「取り急ぎお礼まで」を使わず、別の敬語表現に言い換えるのが適切です。
今回は、「略儀ながら、まずはメールにてお礼申し上げます」に言い換えた時の例文を紹介します。
以下の例文は、「取引先に依頼していたものが送られてきたものの、外出先で商談が控えている」シーンを想定しています。
- 参考
- 〇〇株式会社 △△様
いつも大変お世話になっております。□□株式会社の○○です。
先日お願いしておりました件につきまして、ご対応いただき誠にありがとうございます。
現在商談で外出しておりますため、略儀ながら、まずはメールにてお礼申し上げます。
後ほど改めて詳細についてご連絡いたします。
依頼の詳細確認や文章を練る時間がない時は、上記のような文面を送ることで急ぎの連絡でも誠実な印象を与えます。
「取り急ぎお礼まで」の英語表現をご紹介
「取り急ぎお礼まで」を直訳できる英語表現はありませんが、ニュアンスを伝えられるフレーズはいくつか存在します。
「急いでいるが、まずは感謝を伝えたい」という気持ちを表現できる英語フレーズは下記の3つです。
- Thank you for now.
- I just wanted to thank you for …
- I appreciate your 〇〇 for now, I’ll get back to you at a later date.
それぞれのフレーズについて、使える場面やニュアンスの違いを解説します。
①Thank you for now.
- 【カジュアルな英語表現】
- Thank you for now.
(ひとまずありがとうございます)
カジュアルな表現のため、同僚や部下に使うのが一般的です。
- 参考
- 【会話の一例】
Aさん:I’ve finished the report you asked me to take over.
(引き継いだ資料作成を仕上げておきました。)
Bさん:Oh, great. Thank you for now. I’ll go through it and get back to you later.
(本当に助かりました。取り急ぎお礼まで。確認後、改めて連絡します。)
「for now」には「とりあえず」「ひとまず」というニュアンスがあるため、「取り急ぎお礼まで」と訳すことができます。
②I just wanted to thank you for …
- 【対面・ビジネスメールで使える英語表現】
- I just wanted to thank you for …
(〜について取り急ぎお礼申し上げます)
カジュアルとフォーマルのどちらにも適しているので、使用頻度の高いフレーズの一つといえるでしょう。
- 参考
- 【会話の一例】
Aさん:I’ve shared the final version of the proposal.
(最終版の提案書を共有しました。)
Bさん:I just wanted to thank you for sharing it. I’ll review it and get back to you tomorrow.
(共有いただきありがとうございました。確認後、明日改めてご連絡いたします。)
「I just wanted to thank you for sharing it. 」は「共有いただきありがとうございました。」と訳しますが、「取り急ぎ感謝の気持ちを伝えたい」というニュアンスも含みます。
③I appreciate your 〇〇 for now, I’ll get back to you at a later date.
- 【フォーマルな英語表現】
- I appreciate your 〇〇 for now, I’ll get back to you at a later date.
(略儀ながら、あなたの〇〇に感謝いたします。後日改めてご連絡いたします)
「appreciate」は「thank」より丁寧で、ビジネスメールでも好まれる言い回しです。〇〇の部分には、以下のような言葉を入れて、何に対して感謝を伝えたいか明確にする必要があります。
- support(支援)
- handling(対応する)
- prompt response(迅速な返信)
- 参考
- 【会話の一例】
Aさん:I’ve arranged the schedule.
(スケジュールを調整しました。)
Bさん:I appreciate your prompt response for now, I’ll get back to you at a later date.
(略儀ながら、あなたの迅速なご対応に感謝いたします。後日改めてお礼をいたします。)
フォーマルな場で丁寧さを保ちつつ、一旦お礼だけ伝えたい場面におすすめです。
「取り急ぎお礼まで」は相手を見極めて使おう
「取り急ぎお礼まで」は便利な表現ですが、上司や取引先など目上の人に使うと「簡略的で失礼」と受け取られる可能性があります。
そのため、誰に対しても「まずはお礼申し上げます」「略儀ながら、まずはお礼申し上げます」などの丁寧な表現を使うのが無難です。
また、「まずは感謝だけを伝える」というニュアンスのため、落ち着いたタイミングで改めてお礼をする必要があります。
後日メールか対面で正式にお礼することを忘れないようにしましょう。
近年「取り急ぎお礼まで」は、失礼な印象を持たれやすくなっています。
使用を避け、丁寧な代替表現を使うことが、ビジネスにおいてリスクを減らし信頼関係を築いていくためのコツといえるでしょう。