「一存では決めかねる」は、とっさの判断で物事を決められない時によく使われる表現です。
自分の判断で質問に回答したり要求に応えたりするのが難しい場合でも「一存では決めかねる」を正しく使えば、相手に失礼な印象を与えにくくなります。
しかし、目上の人にも使える言葉なのか、そもそも正しい敬語表現なのかなど、意味や使い方がわからずビジネスの場での使用をためらった経験がある人もいるのではないでしょうか。
本記事では「一存では決めかねる」の意味や具体的な使用例、言い換え表現、メール例文などを詳しく解説します。注意点や英語表現もお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。
「一存では決めかねる」は上司や目上の人に使用して良い
「一存では決めかねる」は、敬語表現と組み合わせればビジネスシーンで目上の人に使っても問題ありません。
上司や取引先など目上の人に使用する際は「一存では決めかねます」と「ですます調」で〆るのがポイントです。
このフレーズは、主に相手の要求に応えるべきかどうか自分だけでは判断できず返答を保留したい場面や、相手の提案を遠回しに拒否したい場面などで使われます。
ビジネスシーンにおいて、上司から他の社員も巻き込むような急ぎの業務をお願いされたり、取引先からプロジェクトの進捗に関わる大きな提案をされたり、自分の判断だけで対応していいのかどうか悩む機会が多々あります。
だからといって、「わかりません」「できません」といった否定的な言葉を使うと、相手を不快な気持ちにさせてしまう可能性が高いです。そんな時は、「私の一存では決めかねます」と一言入れることで、自分では決められない状況である旨を相手にやんわり伝えられます。
また、「大変恐縮ですが、私の一存では決めかねます」のようにクッション言葉を入れれば、よりマイルドな言い回しになります。「私の一存では決めかねます。社内で検討いたしまして、〇月〇日までに返答いたします」と、その後の対応に関する情報を盛り込むのもおすすめです。
ただし、「一存では決めかねます」を多用しすぎると、頼りない印象を持たれる可能性があるため、高頻度で使わないようにしましょう。
「一存では決めかねる」の意味
「一存では決めかねる」は、主に自分一人で判断するには難しい対応を迫られた場面で、その対応を一旦保留にしたりやんわりと断ったりする際に使われます。
「精選版 日本国語大辞典」によると「一存」の意味は以下の通りです。
出典: コトバンク(精選版 日本国語大辞典)「一存」(参照 2024-10-31)自分ひとりだけの考え。一方的な考え。一存分。
一存には「同じ考え」という意味もありますが、「一存では決めかねる」の場合は上記の意味が適しています。
そして「決めかねる」に使われている「~しかねる」は、「デジタル大辞泉」によると以下の意味を持ちます。
出典: コトバンク(デジタル大辞泉)「仕兼ねる」(参照 2024-10-31)それをすることに抵抗を感じる。また、それをすることを拒否する。できかねる。
否定表現として「~しません」もありますが、拒否するニュアンスが強めで、ビジネスシーンで使うには不向きな表現です。そのため、「~しかねます」と婉曲表現にするケースが多いです。
つまり「一存では決めかねる」は「自分一人の考えだけでは決められない」という意味であり、上司をはじめ第三者の判断を仰ぐ必要があると主張できます。
また、「一存では決めかねる」は、自分の判断による失敗や責任分担が曖昧になるリスクを回避したい時にも適しているので、ビジネスの場ですぐには応えられない決断を迫られた際は使ってみましょう。
「一存」と「一任」の違い
一存とよく似た「一任」という言葉もあります。
しかし、この2つの言葉は、響きや字面は似ていても異なる意味を持っているので、混同しないように注意しましょう。
一存が自分だけの考えや独断を意味するのに対し、一任は相手に物事の全てを任せることを意味します。
ビジネスシーンにおいて、一任は主に同僚や部下などに仕事を任せる時に使用される言葉です。上司や目上の人にも使える表現ではあるものの、「一任いたします」と丁寧な言い回しにするケースが多いです。
【「一任」の使用例文】
- このプロジェクトの決定権は部下の〇〇に一任しています。
- この物件の管理会社は、A社に一任いたします。
このように、「一存」と「一任」とでは、意味だけでなく使用に適した場面も異なるのです。
もし「一存では決めかねる」と同じ用途で「一任では決めかねる」を使ってしまうと、「他人に任せることを決められない」という意味になり、日本語として不自然なうえ、本来伝えたかった意味からも大きくかけ離れてしまいます。
「一存」と「一任」の意味や用途の違いを理解して、適切なシーンで使い分けられるようになりましょう。
「決めかねる」と「決めあぐねる」の違い
「決めかねる」には、「決めあぐねる」というよく似た表現があります。
この2つはどちらも決められない場面で使用されますが、表している状況が違うので細かい意味やニュアンスが異なります。
「決めかねる」は、複数の選択肢のうちどれを取るか決定できずにいる状況に適した表現です。一方で「決めあぐねる」は、決定しようとしても良い結果が得られず、うんざりしている状況を表しています。
「一存では決めあぐねる」と使ってしまうと、「自分一人だけで決定しようとしても決まらず、うんざりしている」のような意味合いになり、「決めかねる」を使うよりもネガティブな印象を与えてしまいます。
相手の気分を害する可能性が高いため、ビジネス上の会話で「決めあぐねる」の使用はなるべく控えるようにしましょう。
「一存では決めかねる」の使用例
「一存では決めかねる」は、相手からの要求・提案に対して、その場での判断・返答を避けたい時に使用されるのが一般的です。また、独断の判断によるリスクを防ぐためにやんわりと断りたい場面でも使われます。
さらに、先述した通り、「一存では決めかねる」を使う際はクッション言葉を置くのがおすすめです。「申し訳ありませんが」「恐れ入りますが」といったクッション言葉を入れてよりやわらかい表現にすれば、相手に失礼な印象を与えることなく自分の意見を伝えられます。
ここでは、取引先から上司も関与する大型案件に関する質問を受けた時、「一存では決めかねる」を使って返答を回避するための例文をご紹介します。
-
Aさん:「この内容でよろしいですか?」
-
Bさん:「恐れ入りますが、その件に関しましては私の一存では決めかねます。上司と相談いたしまして〇月〇日までにお返事いたします。」
相手からの質問に対して返答を保留したい場合、「今後どのような対応をするのか」「いつまでに返答をするのか」などを一緒に伝えておくと、相手は納得して返答を待ってくれます。
くわえて、取引先から自社の取扱商品に関する情報を教えてほしいと頼まれた時、「私の一存では決めかねる」を使った断り方の例は以下の通りです。
-
A社:「〇〇(商品名)の再販時期を教えていただけますでしょうか。」
-
B社:「申し訳ございませんが、〇〇(商品名)の再販時期をお伝えするのは私の一存では決めかねます。」
上記のような「一旦は断っておきたい」というシーンで、相手との関係上否定的な表現を使いたくない時に適しています。
「一存では決めかねる」をビジネスで使う時の注意点
「一存では決めかねる」をビジネスシーンで使う際は、以下の2点に気を付けることが大切です。
- 過去の断りや保留を指す時には使わない
- 「決めかねない」は誤用
上記のポイントを押さえておかないと、たとえ相手への配慮を示すために使ったつもりでも、その意図を相手に正しく伝えられません。
「一存では決めかねる」の注意点を詳しく解説していくので、心に留めておきましょう。
【注意点1】過去の断りや保留を指す時には使わない
「一存では決めかねる」は、一人で決められない現状を示すのに使える表現で、過去の断りや保留を指す時に使用するのには適していません。
そもそも、「~しかねました」と過去形で表すケースは少ないです。「~しかねる」は「~しない」の婉曲表現であり、行動の前に伝える際に使われます。そのため、行動し終わったあとに伝えたい時に使用すると不自然な印象を与えてしまいます。
過去の断わりや保留を指す場合、「一存では決められませんでした」と表すのが自然です。
【注意点2】「決めかねない」は誤用
「一存では決めかねない」は、「一存では決めかねる」とは全く異なる意味になります。
「~しかねる」という言葉には、抵抗や拒否を示す意味が含まれています。そこに打消し(否定)の助動詞「~ない」を付けて「~しかねない」に言い換えると、「~しない(できない)こともない」というニュアンスになり、「できるかもしれない」という意味になるのです。
自分一人での判断を避けたい場面で「一存では決めかねないです」と言った場合、「自分一人で決められるかもしれない」と、本来示したい内容と真逆の意味で伝わってしまう可能性があります。
「決めかねない」を否定の意味で使うのは誤用である点に注意しましょう。
ビジネスメールでの「一存では決めかねる」を言い換えた使用例文
「一存では決めかねる」の主な言い換え表現は以下の通りです。
- 参考
- ・私個人の判断ではご対応いたしかねます
・私の一存では判断できかねます
・上司(上長)の〇〇の判断を仰ぎたく存じます
・返答いたしかねます
・なんとも申し上げられません
・お答えを差し控えさせていただきます
言葉のバリエーションを増やしていくことで、さまざまなビジネスシーンに応じて使い分けられるようになります。
ここからは、ビジネスメールで使える「一存では決めかねる」の言い換え例文をご紹介します。
【例文1】「私個人の判断ではご対応いたしかねます」
「私個人の判断ではご対応いたしかねます」は、相手からの提案・要求に答えられない時に使える表現です。
「私個人の判断」は「一存」の言い換え表現としてさまざまなシーンで使えるので、ぜひ覚えておきましょう。
また、接頭語「ご」を付けて「ご対応いたしかねます」と表現すれば、より丁寧なニュアンスになります。
例として、商談中に取引先から納入価格の値下げ交渉を受けた際に、「私個人の判断ではご対応いたしかねます」を使って回答を保留するビジネスメール文をご紹介します。
- 参考
- 〇〇様
いつもお世話になっております。
株式会社△△の●●です。
先ほどは、ご多忙にもかかわらず、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
本日ご要望がありました納入価格の値下げの件ですが、私個人の判断ではご対応いたしかねますので、社内で検討したうえ◇月◇日までにご返答いたします。
恐れ入りますが、もう少々お待ちいただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。
【例文2】「私の一存では判断できかねます」
「私の一存では判断できかねます」は、自分の判断だけでは難しい決定を迫られた場合や、検討したうえで判断したい場合に適しています。
「できかねます」は、目上の人にも使える表現ですが敬語ではないため、クッション言葉を使用したり、「いたしかねます」と敬語表現に言い換えたりするのがおすすめです。
ここでは、他部署の役職者からプロジェクトに関する質問をされた時、自分ではなく上司に聞いてほしい旨を「私の一存では判断できかねます」を使って伝える際のビジネスメールでの例文をご紹介します。
- 参考
- ▢▢課 〇〇主任
お疲れ様です。
△△課の●●です。
ご質問ありがとうございます。
プロジェクトのスケジュール変更につきましては、申し訳ありませんが、私の一存では判断できかねます。
恐れ入りますが、〇〇部長にお聞きいただきたく存じます。
大変お手数おかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。
【例文3】「上司(上長)の〇〇の判断を仰ぎたく存じます」
「上司(上長)の〇〇の判断を仰ぎたく存じます」は、目上の人に確認を取ってから決定したい場面で使える表現です。
「判断を仰ぐ」は、目上の人も含めて、自分より優れている人の判断を求める意味を持ちます。そのため、専門分野の知識やスキルを持っている人であれば、上司や上長以外の人の名前を出しても違和感はありません。
なお、社外で上司・上長の名前を出す際は敬称をつけないのがマナーなので、呼び捨てにします。
例として、取引先から新サービスの営業を受けた時に、「上司(上長)の〇〇の判断を仰ぎたく存じます」を使ってその場での判断を避けるビジネスメール文をご紹介します。
- 参考
- 〇〇様
お世話になっております。
株式会社△△の●●です。
新サービスのご提案ありがとうございます。
本件につきましては、上司の◇◇の判断を仰ぎたく存じます。
いただいた資料に不明点等ございましたら、弊社よりご連絡いたします。
お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
【例文4】「返答いたしかねます」
「返答いたしかねます」は、判断を保留にしたい際に使われる「わからない」「この場では対応できない」を意味するフレーズです。
より丁寧にしたい場合は「返答」を「ご返答」に変更するのが望ましいほか、「お答えいたしかねます」に言い換えても活用できます。
ただし、「返答いたしかねます」のみだと、「自分一人だけの考え」という意味を持つ「一存では」の要素が含まれていません。
「自分だけの判断では答えられない」ことを強調したい場合は、「私からは返答いたしかねます」「私個人の判断では返答いたしかねます」と表しましょう。
ここでは、利用者から自社の廃盤商品に関する問い合わせを受けた時に、「返答いたしかねます」を使って要望に応えられない旨を伝えるビジネスメール例文をご紹介します。
- 参考
- 〇〇様
いつも弊社製品をご愛顧いただき、ありがとうございます。
お問い合わせいただいた弊社製品△△は●●年××月頃に生産終了となっており、修理対応・補修パーツ販売期間についてもすでに終了している状態でございます。
従いまして、誠に不本意ではございますが、製品詳細につきましては返答いたしかねます。
この度はご期待に添えない形となり、心よりお詫び申し上げます。
今後とも、当社の製品をよろしくお願いいたします。
【例文5】「なんとも申し上げられません」
「なんとも申し上げられません」は「なんとも言えない」の丁寧表現であり、現状を把握しきれずその場での判断や回答を避けたいシーンで使用されるのが一般的です。
保留にしたい場合だけではなく、わからないことを丁寧かつはっきり伝えたい場面にも適しています。
なお、「自分一人だけの考え」という意味も含める際は、「私の一存ではなんとも申し上げられません」「私個人の判断ではなんとも申し上げられません」と表します。
ビジネスメールでよく使う「なんとも申し上げられません」の短文フレーズは以下の通りです。
- 参考
- ・私の一存では、なんとも申し上げられません。
・商品の入荷時期については未定となっており、現段階ではなんとも申し上げられません。
・私個人の判断ではなんとも申し上げられませんので、上司と相談してからお返事いたします。
・新しいマーケティング戦略の具体的な効果については、なんとも申し上げられない部分があります。
【例文6】「お答えを差し控えさせていただきます」
「お答えを差し控えさせていただきます」は、答えられない・答えたくない場合や答えがわからない場合に使われる表現です。
「差し控える」の丁寧表現にあたる「差し控えさせていただきます」は、「悪い結果にならないように遠慮する」という意味になります。ビジネスシーンにおいては、相手からの要望に対して丁重にお断りする際によく使われる表現です。
「お答え」を付け足すことで、その場での回答を避けたい場面や遠まわしに回答を拒否したい場面に適したフレーズになります。
ビジネスメールでよく使う「お答えを差し控えさせていただきます」の短文フレーズは以下の通りです。
- 参考
- ・大変恐縮ではございますが、お問い合わせいただいた件につきましては、お答えを差し控えさせていただきます。
・現在検討中のため、詳細についてはお答えを差し控えさせていただきます。
・内部情報につき、お答えを差し控えさせていただきます。
・この件につきましては、お答えを差し控えさせていただきますのでご了承ください。
「一存では決めかねる」の英語表現をご紹介
「一存では決めかねる」を英語で表現すると「I can’t decide at my own discretion.」になります。
日本語の「一存」に該当する英語表現は「at one’s(my) own」であり、「単独で」「自分一人の力で」という意味です。ここに「裁量」を意味する「discretion」をつけて直訳すると「単独の裁量」となり、より「一存」「自分一人の考え」というニュアンスが強まります。
そして、「私には決められません」の意味を持つ「I can’t decide」を付け足せば、「自分一人の裁量では決められません」になります。
また、「一存では決めかねる」に近しい表現として「自分には決定権がない」という意味が含まれる「It’s not up to me to decide.」も、ビジネス英語でよく使われる表現です。
どちらも、自分にその決定をする権限や責任がない時や、第三者に判断を仰ぎたい時に適しています。
「一存では決めかねる」の英語表現を使った例文をいくつかご紹介します。
- I can’t take a decision at my own discretion,so I need to go through the details back in the office.(私の一存では決めかねるので、持ち帰って検討させていただきます。)
- They proposed a change to the schedule, but it’s not up to me to decide.(スケジュールを変更したいと提案をいただきましたが、それは私一人では決められません。)
日本語と同様に、英語表現にもバリエーションを持たせることで、より良好なビジネス関係を築きやすくなります。
「一存では決めかねる」は提案への断りや返事の保留を伝える表現
「一存では決めかねる」は、主に返答や判断を保留にしたい時や、相手の提案をやんわり断りたい時に使える表現です。
ビジネスの場において、自分一人で対応するには難しいトラブルや、一度会社に持ち帰って検討したほうがいい案件などが発生するケースも珍しくありません。
そんな時に「私の一存では決めかねます」と丁寧に伝えられれば、相手に失礼な印象を与えることなく場を乗り切れる可能性があります。
しかし、使い方を誤ってしまうと、違う意味として受け取られたり、相手に不信感を持たれたりするリスクもあるので、使用方法には注意が必要です。
「一存で決めかねる」を使う際に覚えておきたいポイントをおさらいしましょう。
【おさらい】
- 「一存では決めかねる」は上司や目上の人にも使用できる
- 「一任」「決めあぐねる」など、異なる意味を持つ似た言葉に注意する
- 状況に応じて、言い換え表現を使い分けたりクッション言葉を入れたりする
信頼されるビジネスマンになるためには、何事にもスピーディーに結論を出そうとはせず、時には確証が持てる結論が出るまで保留にする判断力があるかどうかも重要です。
この記事を参考に「一存では決めかねる」の適切な使い方を習得してください。
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